心臓が、ドクンと胸の内側を打った。
ぼくは、思わず隣屋にあたるキッチンの方を振り返る。

ここからだと流し台は死角になるため、美穂の姿は見えない。
当然、あちらからもぼくは見えないということだ。


音を立てないように気をつけて、素早くページを繰る。
緊縛写真のグラビア、マニアっぽいイラスト、その後に小説があった。

友だちの家のパソコンで、エッチな画像くらいは見たことがあるが、
同じイケナイことでも、そういう世界ともまた違うのがわかる。

官能小説の内容は、切れ切れにしか頭に入ってこない。
所々にある挿絵は白黒だが、エロティックなインパクトがある。


キッチンからは、美穂の鼻歌が聞こえて来ていた。
よく知っているはずのメロディなのに、何の歌か思い出せない。

何度も斜め後ろを振り返りながら、ぼくはそのSM雑誌を調べた。
深呼吸をしても、ドキドキと息の荒さは収まらない。


そして、真ん中あたりのページで見つけてしまったのだ、
それからのぼくが歩むことになる道を決定づけた、一枚の写真を。